「まいったなあ」
そう呟きながら三千院家の執事ハヤテは携帯を握りしめ、トボトボとバイト仲間の西沢さんの家へ歩いていた。
というのも実は昨日のバイト帰りに間違って西沢さんの携帯を持って帰ってしまったのだ。
「一晩でメールの着信が24件、もの凄く迷惑かかっているだろうな、なんて謝ろう…」
そんなことを言っている間に西沢さんの住む団地に着いていた。
ニュータウンと言うわけでも無く、少し年期の入った極々普通の団地だ。
しかしここに来たのは初めてという訳ではない。
以前にシスターに執事修行と題して連れて来られたことがあるのだ。
「よし!」
―ピンポーン
ハヤテは覚悟を決めてインターホンを押した。
「はーい」
勢いよく西沢さんこと西沢歩がドアを開けた。
「あ、西沢さん、てえぇ!? なんでメイド服着てるんですか!?」
見ると歩は可愛らしいフリフリのスカートの着いたメイド服を着ているではないか。
その格好が普通に可愛いのでハヤテは見とれてしまった。
「うわあぁハヤテ君!!これは違うの!」
取り乱した歩は慌てて自室に引っ込んだ。
程なくしてして歩は私服に着替えて出てきた。
「あのメイド服は今度文化祭のクラスでやるメイド喫茶で着るの、それの試着をしていて…決して変な趣味があるわけじゃないんだから勘違いしないでね!?」
「ハハ、そういうことでしたか。それにしても文化祭かぁ…去年はバイトしてて行けなかったなぁ」
「ハヤテ君(バイトが)大好きだもんね」
「まったくです」
そんな冗談で笑いあっていると後ろからいきなり怒号が響いた。
「さっきから誰と喋っているのかと思ったら、歩はそいつが好きなのかああぁぁ!!」
「お、お父さん!? 合ってるけど違うよ!」
「そうですよお父さん、合ってるけど違います!」
「お父さん言うな〜!!」
この眼鏡をかけたごく普通のサラリーマンが歩の父。
今にも飛びかかりそうな喧噪でハヤテを睨んでいる。
しかし一触即発という状況に幸か不幸か横槍が入った。
「何を玄関先で騒いでるのよ、と思ったらあなた、いつかの執事じゃない」
「本当だ、ナギちゃ…ナギさんの執事じゃないか」
「お母さん!それに一樹まで!」
そう、この優しそに見えて実は黒そうなのが歩の母、眼鏡をかけていかにもなオタクなのが弟の一樹だ。
西沢ファミリー勢揃いということである。
「ちょっと母さん聞いてくれよ、歩がどこの馬の骨かわからない執事のことが好きだって言うんだ」
「う〜ん、そういえばあなたあの大富豪で有名な三千院家の執事って言ったわよね?」
「ええ、三千院家にお仕えしております」
(わお、これは玉の輿のチャンスじゃない?)
「良いわよ歩、今すぐにでも結婚しなさい」
「ちょ、お母さん!?」
歩と父は驚愕して声を揃えた。
「執事さん、ナギちゃ…ナギさんの執事なんだよね?」
今度は一樹が質問した。
「はい、ナギお嬢様にお仕えしてますよ」
(これはナギちゃんと距離を近付ける大チャンス!)
「良いじゃないか姉ちゃん、結婚するんだ!」
「ちょ、一樹まで!!」
歩と父はまた声を揃えた。
「だいたい歩はまだ16歳だぞ!」
「そうよお母さん、結婚すべきだけどすべきじゃないよ!」
「ほう…お母さんに口答えするというのね?」
「姉ちゃん結婚しろ〜」
家族一糸乱れて妄言暴言のオンパレードだ。
とりつく島もないように思える。
「あの…皆さん落ち着きましょうよ」
「家族の問題に口出ししないで!!」
ハヤテは西沢ファミリー全員にあしらわれた。
(あれ…僕もう関係無くね…?)
「あの…僕そろそろお暇しますね、それと西沢さん携帯すいませんでした!」
そう言ってハヤテは立ち去ろうとすると、後ろから声があった。
「あ、ハヤテ君! またバイトでね」
「はい。ではまたバイトで」
fin
…あれ?
長編にするつもりが一話で収まる内容だったぞ
…西沢さんで長編は無理ということか
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